住まいから考える気候変動対策:不動産セクターの課題と個人・企業の貢献
私たちの日常生活の基盤である「住まい」や、働く場を含む「不動産セクター」は、実は気候変動に深く関わっています。このセクターは、建設時や解体時、そして建物の利用時に大量のエネルギーを消費し、温室効果ガスを排出しています。同時に、気候変動による自然災害リスクの増大など、直接的な影響も受けやすい特性があります。
この記事では、不動産セクターが気候変動に対して抱える課題、そして排出削減と適応の両面で考えられる対策、さらに私たち個人や企業がどのように貢献できるのかについて解説します。
不動産セクターが気候変動に与える影響と課題
不動産セクター、特に建築物のライフサイクル全体(建設、利用、解体)は、世界のエネルギー消費量と温室効果ガス排出量の大きな割合を占めています。
- 建設・解体段階: 資材の製造・運搬、建設機械の使用、解体に伴う廃棄物処理などでエネルギーが消費され、排出が発生します。
- 利用段階: 建物の運用、特に冷暖房や照明、給湯などによるエネルギー消費が最も大きな排出源となります。
既存の建築物の多くは、必ずしも最新の省エネルギー基準を満たしているわけではなく、これらの古い建物のエネルギー効率改善が大きな課題となっています。
排出削減(緩和策)と適応策
気候変動対策は、主に温室効果ガスの排出を減らす「緩和策」と、気候変動による避けられない影響に対応する「適応策」に分けられます。不動産セクターでは、その両面での対策が求められています。
1. 排出削減(緩和策)
- 省エネルギー性能の向上: 新築時には高い省エネルギー基準を満たすこと(例: ZEH - ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、既存建物には断熱改修や高効率な冷暖房・給湯設備の導入が有効です。
- 再生可能エネルギーの利用: 建物の屋根などに太陽光発電設備を設置したり、再生可能エネルギー由来の電力プランを選択したりすることが考えられます。
- 低炭素な建築材料の選択: コンクリートや鉄鋼は製造時に大量の排出を伴うため、木材などカーボンフットプリントの小さい材料の利用を増やすことが検討されています。
- 効率的な都市・建築デザイン: コンパクトシティ化による移動の排出削減、パッシブデザイン(太陽光や風など自然エネルギーを最大限活用する設計)によるエネルギー消費抑制も緩和に貢献します。
2. 適応策
- 自然災害リスクへの対応: 洪水、高潮、地震、土砂災害などのハザードリスクを考慮した立地選定や設計、建物の耐水性・耐風性・耐震性強化が重要です。
- 暑熱対策: 気温上昇に対応するため、建物の断熱・遮熱性能向上、日射遮蔽、屋上・壁面緑化などが有効です。
- 水資源管理: 渇水リスクへの対応として、雨水利用システムや節水設備の導入が考えられます。
個人や企業ができること
これらの対策に対し、個人や企業は様々な形で貢献できます。
個人ができる貢献
- 住まい選び: 賃貸や購入の際、省エネルギー性能表示のある物件を選ぶ、公共交通機関が利用しやすい立地を選ぶ、地域のハザードマップを確認するといった視点を持つことが考えられます。
- 現在の住まいでの工夫: 省エネ家電の利用、適切な冷暖房温度設定、こまめな消灯など日々の省エネ行動に加え、電力会社を再生可能エネルギー由来のプランに変更することも有効です。可能な場合は、窓の断熱改修や内窓設置なども効果的です。
- 情報収集と発信: 住まいの省エネ改修に関する補助金制度や、地域の気候変動リスクについての情報を収集し、家族や友人と共有することが、行動のきっかけとなる可能性があります。
不動産関連企業ができる貢献
- 低炭素・高レジリエンス物件の開発・提供: ZEH/ZEB(ゼロエネルギービルディング)や耐災害性の高い建物の開発、グリーンリース契約(テナントとの協力による省エネ推進)などが挙げられます。
- 既存建物の改修促進: 所有・管理する物件の省エネ改修を積極的に行ったり、賃貸物件の入居者向けに省エネに関する情報提供やサポートを行ったりすることが考えられます。
- サプライチェーンにおける排出削減: 建築材料メーカーなどサプライヤーと協力し、資材製造・運搬時の排出量削減に取り組みます。
- 気候関連リスクの情報開示: TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などの枠組みに基づき、気候変動が事業にもたらすリスクや機会について情報開示を進める企業も増えています。
まとめ
住まいや不動産セクターは、気候変動対策において排出削減と適応の両面で非常に重要な役割を担っています。問題の規模は大きいものの、個人レベルでの住まい選びや日々の行動、企業レベルでの開発・運用における取り組み、そして行政による政策誘導など、多様なアクターの連携によって対策は推進されます。
この記事が、皆さんが日々の生活の中で気候変動と住まいの繋がりについて考えたり、具体的な行動や情報交換のきっかけとなったりすることを願っています。